田内氏と鈴木氏

日本のマーケティング市場において普遍的なモノとなりつつある“D2C”。

言わずと知れたD2Cは「Direct to Consumer」の略であり、メーカー自身がECサイトといった自社チャネルを利用し、一般消費者に直接商品を売るというビジネスモデルです。

海外ではD2Cによって大成功を収めた企業が報告されている中、ここ日本においてD2Cで成功を収めた企業は数える程にしかありません。

本記事では株式会社天喜ジャパン 最高執行責任者の鈴木崇仁 氏、PROJECT GROUP株式会社 代表取締役の田内広平 氏をお招きし「D2Cの変遷、この先どう考えていくべきか」について対談形式で語って頂きました。

対談者プロフィール

田内氏と鈴木氏
田内広平 氏(写真左)
PROJECT GROUP株式会社 代表取締役。
2012年、大学卒業と同時に株式会社Project L.C.(現・PROJECT GROUP株式会社)を創業。ORBIS、品川美容外科クリニック、ビックカメラといった大手クライアントを中心にデータマーケティング/R&Dを提供。グロースハック集団として業界トップクラスの実績を持つ。ベストベンチャー100を2017/2018で連続受賞。

鈴木崇仁 氏(写真右)
元・株式会社ネットショップ総研 代表取締役、現・株式会社天喜ジャパンCOO。
楽天MVP7回受賞。Yahoo!ショッピング が制定するパートナー制度の最上級である『コマースパートナーエキスパート』に選出。

D2Cは怪しげ?D2Cを形成する3つの要素

田内氏と鈴木氏
田内:D2Cといえば通販、通販といえばネットショップ総研、ネットショップ総研といえば鈴木さん!ということで、今回は元ネットショップ総研CEO、現天喜ジャパンCOOの鈴木さんをお呼びしました。

鈴木:どうもお久しぶりです。よろしくお願いします。

田内:さっそくなんですけど最近のEC業界ってどう思います?めちゃめちゃD2C流行ってるじゃないですか。

鈴木:流行ってますね。どこの企業でも「D2C、D2C」って言ってますよ。

田内:個人的にはD2Cって怪しさ9割以上なんですよ(笑)

というのもコスメとか健食とか、アフィで流れてる物のほとんどは商品クオリティを追求してないし、大体がOEMをそのままで出してるだけでカスタマイズほぼしてないのでは?って感じで。

鈴木:それもありますね。僕としては「言葉として流行ってる」って印象かな。そもそもD2Cって概念自体の定義が終わってないと思うんですよね。みんな言ってる事それぞれ違うし。

田内:それですね。D2Cファンドとかも出てきて盛り上がってるけど「ただのサブスクか、定期購入のモデルじゃん」みたいなのが多いし、そんなの言い始めたら定期通販は全部D2Cじゃね?って思いますけど、でもそれって何となく違う気するなぁと。

田内氏と鈴木氏
田内:ちなみに元祖D2C企業ってどこなんですかね?

鈴木:僕の知ってる限りだと、元祖D2CっていえばNetflixですね。

田内:おお!これは完全に予想外の方向から出てきましたね(笑)

鈴木:僕の思うD2Cの定義って「①顧客とメーカーが直接接点を持っている」「②顧客からのフィードバックを元に商品が進化する」「③継続利用することで価値が増大する」の3つなんですよね。

そういう意味ではNetflixは先駆けだったと思ってます。当時は今のようなオンデマンド配信ではなく、月額を支払うと好きなビデオテープやDVDがレンタルできて、家に配送されてくるっていうサービスでしたよね。レンタルビデオ店がロードサイドにめちゃ在った時代だったので、衝撃的なサービスモデルだな、と。

ちょうどこの時期、1990年代後半年~2010年ぐらいってD2Cっぽいサービスが海外で流行り始めた頃ですね。

田内:懐かしいすねぇ。日本だとTSUTAYAレンタルとかGEOが全盛期の時代ですね。

鈴木:そうそう。アメリカだとバイアコムに当時84億ドルで買収されたブロックバスターがレンタルビデオ市場を食い尽くした時代です。それも1997年にNetflixが登場して市場が一変しましたね。

何がやばいって定額払えば選んだビデオが送られてくる手軽感、そして何より「毎月の価格は変わらないのに作品数が増え続ける圧倒的お得感」ですね。毎月ユーザーがお金を払い続けるためには、価値提供が継続的に行われてなければいけない。Netflixは作品を毎月追加することで価値を高め、ユーザーに消費をし続けさせるというサイクルを作ってました。

田内:つまり、Netflixは「③継続利用することで価値が増大する」を持っていたわけですね。

鈴木:なんならプラットフォーマーなので「①顧客とメーカーが直接接点を持っている」も持っていたし、レンタルの流れから仕入れを変えていたので「②顧客からのフィードバックを元に商品が進化する」も持っていたといえます。

田内:たしかに!完全にD2Cじゃないですか。

鈴木:そうなんです。

ただ、当時Netflixが海の向こうで流行ってても、日本でD2Cが流行るかっていうのは微妙なんですよ。そもそも物理的に距離あるし、サービス展開も日本ではほぼしてない。

日本でD2Cが流行った背景は別にあって、イオンやセブンイレブンといった小売業がプライベートブランド(以下PB)にかなり力を入れ出したことに起因していると思ってます。

鈴木氏
田内:ショッピングモールとコンビニのPBがD2Cを生んだっていうのはあんまり想像できないんですけど、それはどういう文脈の話なんですかね?

鈴木:例えば、セブンイレブンのPBって2012年頃に急激に評価が高くなってきたんですよ。今だと当たり前ですが、セブンカフェのコーヒーとかが発売したのも2012年頃。当時だと、大手メーカーと提携してOEMをそのまま商品として出すっていうのが主流でした。当然、商品品質に差はありません。何せ中身は一緒ですから。

しかし、それを「最強の売るプラットフォーマー」がやったことで状況は一変したんですよ。当然プラットフォーマーはPBだけで戦っている訳ではないので、必然的に販売価格を下げるという事ができてしまい、同品質の物を安く用意できました。そして強烈にCMを打ったもんだからもの凄く売れた。この時、小売業者側は気付いちゃうんですね。ブランドは自分たちでも作れるって。

この小売業の地殻変動をキッカケに「小売業者がメーカーになる」みたいな流れが訪れた。逆にメーカー側はビビるわけですよ。顧客だった小売業者が競合化する可能性が現実問題として現れたので。そして「メーカーも小売をやらなければいけない」という危機的な風潮が生まれた。要は"メーカーもダイレクトに一般消費者と繋がって売らないといけない"みたいになったんですよ。

田内:面白い考察ですね。プラットフォーマー側とメーカー側の両面からD2Cの流れが生まれたってことですね。プラットフォーマー側は売れ筋データからPB品を作り、メーカー側は自社ECで応戦する。それに海外からきたサブスク(定期販売)モデルが組み合わさって、今のD2Cになった、と。

一見同じ結論っぽいのに、成り立ちが違うだけで大分情勢も違いますよね?

鈴木:そうなんです。メーカー側のD2C販売の成功例は極端に少ないのに、プラットフォーマー側は意外と成功していることが多い。

よく田内さんが言う「もともと日本企業にマーケティング文化はない」みたいなのが全面に出ている結果ですよね。売り手側って高速回転で思考錯誤しないと戦えないから、結果外資的なマーケティング文化が定着しがちですけど、メーカーって大量の顧客データ分析するとか顧客からのフィードバックから商品を調整していくとかを高速でやるって文化も人的リソースもないことが圧倒的に多いですからね。そもそも販売側からすれば、極端な話売れれば商品何でもOKみたいな側面もありますし。

田内:まぁそうですよね。売るのが得意とかじゃなきゃ、最終的には資本戦で無理やり売るか、資本力にモノを言わせて商品品質を鬼のように高めて長期戦するのかのどっちかになりますからね。どっちにしても超資本が必要になるので成功例の少なさはこのあたりに起因してそうですね。

D2Cの闇を越えて、大手メーカーの逆襲がはじまる

鈴木氏
田内:ちょっと話変わりますけど、D2CってEC業界にどんな影響与えたんですかね?鈴木さんってEC業界クソ長いじゃないすか?

鈴木:かれこれ約10年ぐらいいますね。

直近だとコロナ影響もありますけど、めっちゃEコマース系の新規事業依頼自体は増えてるんですよ。これは多分業界全体なんで田内さんのところも多いんじゃないですか?

田内:たしかに。うちもプロジェクト案件のうちEコマース比率が爆伸びしましたね。特に立上系の案件依頼がエグいですね。

鈴木:ちょっとしたバブルですよね。ここ最近は全然PRしてないのに依頼きますし。

ただD2Cが成功してるのって大体が大企業、というか大資本持ってるところですね。「とりあえず売ってみて、利益は後から回収する」とかができるのは圧倒的に強いし、プレイヤーが増えすぎて広告が高騰しているのでテクニックや工夫にも限界がある。

田内:札束の殴り合いって感じしますよね。

鈴木:言い方(笑)

田内氏
鈴木:D2Cっぽい商品がめっちゃ溢れかえったタイミングありましたけど、結構な確率で失敗してますからね。通販業界側も「これからECだよ!D2Cだよ!」ってめっちゃ煽ったもんだから、それに乗せられたちょっと資金もった企業や人たちが、ガンガン謎の商品をOEM展開しては消えていくっていう。

田内:市場としては熱いのは確かなんですけどね。Eコマース、特にD2Cだと本質的に重要なのって商品のクオリティじゃないですか。それこそ資生堂とかORBISみたいな大手化粧品ブランドとかって実は結構中身調整してたりする。成分の量やバランスを変えたり、新しい成分を配合したり、質感や匂いを変えたり。

そういった思考錯誤の末にクオリティが上がってくるし、顧客体験として価値も積みあがるというか。エセD2CとかはとりあえずOEMでスタートして中身は一緒、そもそも顧客からのフィードバックで商品改善してるところはほぼいなかった印象。そりゃ品質レベルで差別化もできてないし、体験としても珍しくないからすぐ捲られる。

実際、マーケティング側から言わせれば売ること自体はそんなに難しくないんですよね。予算ガンガン焚いて「初動のCPA高くても長期戦できる」って状況でさえあれば、知名度上がって商標キーワードの検索ボリュームが増えたタイミングで後々回収できちゃうんで。でも、それって超資本戦になるし、何よりコスパが悪い。LTV課題がネックになって利益回収できないこともあり得る。だったら顧客体験良くしてLTV伸ばす。商品を横展開してクロスセルで客単価上げる。ユーザープールをしっかり作り、リテンション率を高めて広告費を削減する。こういうのやっていこうと思うと結局は商品力が勝負になってくる。

鈴木:実際そうですよね。失敗事例が多すぎて屍の山って感じですし。

本来、D2Cの醍醐味って一般消費者に寄り添うことで目まぐるしく変化する流行り廃り、ニーズに合わせることにあると思うんですよ。でも実際はD2Cとは名ばかりで顧客側の利益やニーズなんてものは二の次、自社の利益を主体とした商品設計や戦略が組まれているわけですよ。本来であれば「Netflix」のように、会社として商材の価値を上げていかなくちゃいけないんですけど。

田内:たしかに。

流行ってそうな商品ピックアップしてD2Cとして売るのはアリなんですけどね。D2C流行り始めのタイミングはそれでも結構な利益が出たっぽいですし。ただ摩耗が超早いから事業として回転できるフェーズまで行けてないっていうのが今の市場感な気がしますね。

田内氏と鈴木氏
田内:そもそも、なんで一時的とはいえエセD2Cみたいなので利益出たんですかね?

鈴木:ほぼ大企業しかいなかった市場に新規参入者が入っていった影響だと思います。特に美容・健康食品とか。新規参入者の登場で、急激に市場の隙間埋めが発生して、色々な隙間ニーズを満たしていったっていう背景があります。

田内:大手メーカーが持っていたライトユーザー層とか、ブランドを固定化していないユーザー層を奪ったってことすね。

鈴木:そうそう。一時期、クライアントだった大手メーカー側もかなりD2C系の新興勢力に危機感を持ってました。でも、最近だと大手が逆襲していってる感じに情勢が変化しましたね。

田内:どういうことですか?

鈴木:最初の変調は新興メーカーが乱立しすぎたこと。同じような商品がOEMでパッケージだけ違うって状態で溢れかえったことで、新興メーカーが商品力を高めてLTV伸ばす時間的余裕がなくなったことにあります。結果として新規顧客の過度な奪い合いになった。その間に新興メーカーが展開してた隙間商材を大手がより高品質かつ、ブランド力を活かした形で展開していってるんですよ。

田内:あー、そういうことですね。本来であれば、隙間商品で顧客を刈取り、サブスク定期モデルで積上げた利益で商品力を上げる、っていうフェーズをすっ飛ばすしかなくなった。

鈴木:そうなんですよ。最終的に資本力もブランド形成も終わってる大手にまくり上げられて、ブランド形成に成功した一部を除いて新興メーカーの大半が劣勢になってるって感じです。

田内:現状のD2C業界の疲弊感ってそういうところから来てるんですね。

鈴木:めっちゃ当たり前のことですが、サブスク定額モデルって顧客からもらえる月々のMAX金額ってほぼ変えられないんですよ。ということは、売上を高めるためには必然的に新規顧客を増やし続ける必要がある。解約も一定はありますしね。

田内:でも、参入者が増えた所為で市場がシュリンクしちゃった、と。これは疲弊しますよね。参入者が増えるんだからCPAも高騰してくし。

鈴木:先発しててブランド形成まで到達できたところや、大型資本を手元に用意できたところは調子良いと思いますよ。そうじゃないところは商品の価値を上げるゲームの前に、そもそものゲームルールが変更されちゃった感じです。

LTVとかCRMっていう指標はビジネス上重要なんですが、本当にやらなきゃいけないのは「常にファンを増やし続ける」ことなんですよね。D2Cのマーケティングにおける本質ってこのあたりにあると思うので。

田内:そうですね。僕らもCRM的な観点からクロスセル率を上げる施策とか色々しますけど、でもそれはあくまでも手法論であって本質的に良い商品ってどんどんアップセルするはずですしね。iPhone購入をキッカケにAppleユーザーになって、次はMacBook買っちゃうみたいな。

鈴木:そうそう。だから本質的に良い商品を持ってるクライアントはとりあえずOKみたいな。逆にそういう良質な商材がないクライアントは、言い方は悪いけどそもそもダメというか。かなり大きなビハインドがあるなって思うところですね。

田内氏と鈴木氏
田内:「Netflix」の価値増大の話ってその通りだと思うんですよ。というのも価値が変わらずただユーザーに月額を払わせてるだけだと、飽きられて新しいものに乗り換えちゃうじゃないですか。「Netflix」とか「Amazonプライムビデオ」って日々にコンテンツが増えるし、レコメンデーション機能のレベルも高いから自分好みのコンテンツを提供してくれる。飽きないし、使いやすい。だから別のサービスに乗り換える必要性も無いみたいな。

逆にずっと同じコンテンツが提供され続けている状況って、継続させることはほぼ不可能なわけで、コンテンツ価値の増大がD2Cの定義とするならば「何も増大してない」みたいな。これって従来のサブスクとか定期販売だよねって話になっちゃう。D2Cでもなんでもない。

鈴木:これは本当に言いたくないんですけど、D2C企業を名乗る日本のほとんどの事業者たちがその状態なんですよ。

ある方が言っていた話なんですけど「サプリメントは簡単に効かないから良いんだ」と、「効かないからこそ、ずーと継続的に使ってくださいね」っていうコミュニケーションが重要みたいな。まぁつまりCRMが重要みたいな話なんですけど、これって価値は上がらないままだし、むしろ顧客にとって価値は無いのかもしれない。

田内:僕も似たようなこと聞きますね。とりあえずサプリメントにビタミンを大量に入れておくと。すると尿が黄色くなるからユーザーは何かしらの変化があったと錯覚するから継続してくれる、みたいな。

鈴木:まぁ本当にそういうのばっかり。D2Cというモデルが流行ってるから担いでるけど、実際はすごいギャップがあるという状態ですね。

田内:良いメーカーやブランドは極端に良いんですけどね。

つぶれ掛け靴工場が生んだ、起死回生のD2C

田内氏と鈴木氏
田内:鈴木さん的にはD2Cってもうオワコンなんですかね?

鈴木:そんなことはないと思いますよ。どちらかというと取り巻く環境が問題というか。

田内:じゃあ、逆にD2Cの成功事例的なものってあります?出せる範囲でいいんですが。

鈴木:やずやの香醋とかにんにく卵黄とかはD2Cの成功例だと思いますよ。あとは、、、あんま大手クライアントだと怒られるので(笑)

代わりに、めちゃ身内話になっちゃうんですけど、僕の弟が靴の工場で働いているんですよ。そこは全然儲かってない潰れかけのような会社だったんですけど。彼らは田舎の工場でインターネットなんて出来ないし、ホームページも作れない。一度破産までいってるからお金ももう借りられない。でも起死回生の一手で受注じゃなくてオリジナルで自分たちの靴を作った。でも販路がない。その時に唯一できたのはインスタでオシャレな投稿をするだけ。こんな状態だったんですね。

で、ECサイトを作れない彼らがやったのは、逆に開き直って月に1度の赤坂の「蚤の市」だけで売るという手段だったんですよ。ただ名目としては「こだわりを持って作っている」「試着した上で履いて欲しいからネット販売はやりません」ってことにしたんですね。実際はネット出来ません、ってだけなんですけど(笑)

でもこれが正解みたいなところあったんですよ。いわゆるファッションフリークみたいな人たちってこういうの好きじゃないですか。それでだんだん口コミが広がっていって、1年経たないうちに月で400~500万円くらい売れるようになったんですよね。

田内:へぇー。まさに起死回生と言うか、映画みたいなエピソードですね。

鈴木:そうかもしれないですね。で、これにはまだ後日談があるんですよ。

コロナ禍で「蚤の市」が開催できないということになってヤバイと。で、初めての通販に1足1万円くらいのサンダルでチャレンジしたんですよね。そしたら、それが僅か数時間で1,800万円売れたんですよ。潰れかけの田舎の会社で、工場の職人は10~20人しかいないような規模。年商も1億無いでしょみたいな会社がそんな感じで売れるわけですよね。

田内:めちゃくちゃすごいじゃないですか。

鈴木:インスタのフォロワーは4.1万人しかいないんだけど、フォロワー全員がガチなファン。要は4.1万人の人たちはみんな靴を買ったことある人みたいな感じなんですよね。これはD2Cとしてかなり良いですよね。ファッションフリークな顧客のニーズをちゃんと捉えた靴を提供する。なおかつ、そういう人が集まるSNSをちゃんと使っているから、口コミを通して新規拡大も図れている。

顧客との接点もフィードバックもダイレクトだから、商品企画から参考にできるし。

田内:なるほどー。この先は靴のメンテナンスとかまで、サービスに入れれば更にD2Cっぽくなりますね。

鈴木:ですね。シューフィッターが顧客の足を分析してあげて、パーソナルデータに基づいた靴をワンメイクで提案してあげるとかね。

商品力がすべて?変化するEコマース業界と顧客コミュニケーション

田内氏と鈴木氏

鈴木:田内さんもこの業界そこそこ長いと思いますが、近年の状況をどう思ってるんですか?

田内:そうですね。これはD2Cというかビジネス全般に言えることなんですが、顧客はどのジャンルにおいても品質の良いモノを求めてる傾向にあると思ってます。ネットだとそこまで顕著じゃなかったそういった傾向が、ここ最近急激に来てるなーって感じますね。

鈴木:それはありますね。

田内:D2C関係ないですけど、GoogleのSEOとか分かりやすいですよね。最近では検索結果に並ぶコンテンツの品質の良さが問われてる。信憑性があって作り込まれているコンテンツは上がるし、誰が書いて事実かどうかも分からない内容のコンテンツは落ちる。逆にいうと、ユーザーが求めてるからGoogleはSEOにコンテンツクオリティって指標を追加したと考えられる。Google検索における品質の良さは、検索におけるユーザー体験だから。

鈴木:ふむふむ。

田内氏
田内:もっと言うと、品質が良いにも3種類あって「①高価+高品質」「②そこそこ価格+そこそこ品質」「③安価+そこそこ品質」の3つ。

この中で「③安価+そこそこ品質」は業界の品質をボトムアップする。しかも、薄利だから多売する必要性があるので、必然的に資本量が重要になってくる。イメージは「ユニクロ」とかですかね。

アパレルの中で「安いのにそこそこ品質が良い」の代名詞みたいになってますよね。そんな中で「安いけど微妙」なんてもの誰も欲しくない。つまりは、大手企業もしくは大資本を手に入れたベンチャーとかが業界全体の品質ボトムを底上げしてしまうので、余程切り口が良いか資本力がないと低価格ラインの商品で戦うの自体が最早無理ゲーだと思うんですよ。

もうちょい具体的にいうと、許容できるCPA/CPOが違いすぎるって点ですね。大資本があれば、知名度が上がって商標検索ボリュームが増加してCPA/CPOがキャズムを超えて反転するまで待てばいい。ってことは、多少ROASが合ってなくても広告投下を止めない。そもそも年予算とかでデッカく取ってるから停止なんて概念が最初からない。でも、資本が無い側は基本的に都度利益を出していないとキツイので、必然的に広告投下が消極的になる。

なので、利益額の大きい「①高価+高品質」「②そこそこ価格+そこそこ品質」で戦う必要があると思ってます。許容できるCPA/CPOが引きあがるし、品質って一朝一夕ではマネできないし、資本力問題を短期的には無視できる。ただ「②そこそこ価格+そこそこ品質」は価格と品質のバランスが取れてないといけないので割と難易度が高いって課題が別にありますけどね。

鈴木:たしかにそうですね。CPA戦に持ち込むってって不毛だし、そもそも広告努力でLTVってそんなに変わらないから、より資金を持ってる方が有利になっちゃいますもんね。

田内:まぁCRMをめっちゃ頑張ってクロスセルしまくれば、顧客単価が上げられるのでそういう戦い方もありますけどね。でも、それも「別の商品も買いたい」って気持ちにしなきゃいけないので、行き着く先はCRMも含めた商品品質ってことになっちゃうんですけどね。

鈴木:CRMも含めて商品っていうのは面白いですね。言われてみればって感じ。

田内:一発売って終わりじゃないって点では、CRMはD2Cの柱の一つではありますよね。どれだけ顧客とコミュニケーションとって、情報を吸い上げて満足度を高めるかって部分において。

鈴木:アパレルとか化粧品って元々成熟してたのもあって、必要に迫られてD2C化していった感ありますね。テクノロジーの発展と普及が顧客とのコミュニケーションを簡単にした。しかも、一般消費者も広告慣れしてきてバカじゃなくなったから、劣悪な商品には気付くようになったし、ここから市場の成熟性はまた上がってくるでしょうね。

田内:OEMで作ってる時点で商品品質を中々上げれないってのが課題でしょうね。マーケティング力でゴリっと無理やり売ってくっていうのは、今の市場の流れからは逆行してるし。メディア媒体のレギュレーションもより強固になってきてるし、無理やり売るとCS(顧客満足)は荒れるしCRMでフォロー仕切れない。基本的にクレームになるからUX(顧客体験)的な意味でも劣悪だし。

しかもUXが酷いと全然継続しないから、マーケティング力で無理やり売ってた時代で儲かったのは、ちゃんとやってた一部メーカーを除くとアフィリエイト業界だけなんじゃないかっていう。

鈴木:それでも中々D2C需要って消えないですよね。

田内:やりたい側とやってる側の情報格差がエグいんですよ。

田内氏と鈴木氏
鈴木:クライアントで「D2Cやりたい!」って言ってくるところに共通点というか特徴ってあります?このジャンル多いみたいな。

田内:あー、ダントツで美容化粧品すね。もしくは「今イケてるやつやりたい」って言ってくるか(笑)

鈴木:やっぱそこは一緒なんですね。私のところにくる相談もほぼ美容健康系なんで。

田内:ただ、美容健康系のD2C商材ってアフィリエイトと密接しすぎてて、売り方がアフィリエイト依存すぎるんですよね。そのやり方自体が終わってるんじゃないかって思ってて。

鈴木:お!強い言葉が出ましたね(笑)

田内:アフィリエイト自体が終わったって訳じゃないすよ(笑)座組としていはキチーな、と。

鈴木:(笑)

田内:確かにアフィリエイトって成果報酬形式なんでノーリスクっぽい。実際1~2年前とかは今と違って媒体レギュレーションも緩かったし、結構エグい記事LPを書いても回せたし、オファーがある程度良ければOEM品でもそれなりに売れた。というか結構売れてたんですよ。

けど、今年とか上場会社のソウルドアウトとかも巻き込んで逮捕者は出るし、市場が大荒れしてる。LINEとかGunosyみたいな広告媒体側は配信レギュレーションをガチガチに固めたし、当然メーカーリスクが爆上がるからメーカー側も薬事や景表法かなり気にしてる。当時と比べれば圧倒的に取りづらい。

鈴木:この事件は業界騒然でしたよね。薬事法違反で警告すっ飛ばして逮捕までいくのか!って。しかも、メーカーだけじゃなくて関わってた広告代理店も一緒に逮捕されたもんだから。

田内:そうですね。これで本当に「バブルの終わりだな」って感じが明確になりましたね。これまで通りで生き残るのもスケールするのも無理や、と。まだブラックな取り方してるアフィリエイターとか代理店はもはや脱法っすね。

鈴木:脱法ハーブみたい(笑)

田内:で、話戻すと新興メーカーとかは未だにアフィリエイト比重が重くて、イニシアチブをアフィリエイト業界のメディアとか代理店に取られてるからどんどん薄利になってく。当然、薄利化することで商品価値を高めるための投資も小さくなる。そうすると、D2Cの本質であるはずの「価値が増大する」というシステムが回転しないので、必然的にジリ貧になっていくんですよ。

鈴木:わかるなー。

私のところに相談来るのも、「周りの知り合いがD2Cで上手くいってるからやりたい」みたいなケースがかなり多いですね。この商品が作りたい!じゃなくて、D2Cというビジネスモデルが儲かるらしいし余剰資金を投下するのに良さそうって観点があまりにも多い。昔は3ヵ月とかの定期縛りアリでのオファーが多かったから、PL引いてみてもそれなりに利益回収できた。でも、今ってメーカーとアフィリエイト業界のパワーバランスがぶっ壊れてるから定期縛りオファーはほぼ取り扱ってもらえない。ってことは、一般消費者が商品購入を継続するかどうかはUXというか商品力に8割以上は依存するんでLTVが短い。要は簡単に儲かるはずがないんですよ。

田内:継続率は「商品力8割」っていうのは良く言われますね。

鈴木:効果実感が重要ですからね。

田内:効果実感って意味だと、大手メーカーの商品に勝つのはかなり難しいですよね。「資生堂」とか「P&G」が作ってる化粧品って商品のレベルが違うじゃないですか。研究機関の規模が全く違うので当たり前っちゃ当たり前ですけど。

鈴木:だからこそ、市場セグメント切って隙間を狙う必要があるのに、今売れてる商品の後追いを新興メーカーがしちゃうのがキツイですね。

田内:その点でいくとバルクオムは上手いと思いますけどね。男性向けスキンケアっていう市場自体がほぼない時期に切り込んだから競合が少なかったし、PRも上手くはまったハマったからブランディングにも成功してる。

鈴木:バルクオム有名になったよねー。キムタクでCMもやってたし。

田内:そうそう。このポジションが取れた段階で後追いで競合が入ってきてもそんなに怖くないと思うんすよ。

規模の小さい黎明期の市場、かつ対抗馬はブランド形成がほぼできてないから、新規参入の後追いほぼ儲からない構造になってる。必然的に新規獲得CPAは高くなるし、新興ゆえに資本戦できる状態じゃないから高CPAに耐え続けてLTVでひっくり返せるまで商品改善繰り返すってこともできない。実際、バルクオムのパクリ商品みたいなのはめっちゃ出てるけど儲かってるって話は聞いたことがない。

鈴木:結局、パクリ商品、っていうかなんちゃってD2C商品全般ですが、商品力の低さをマーケティング力で補ってほしい的な感じになるからなー。この従来の型みたいのはもう正直キツい。

田内:その類のオファーが一番悩みますね。

鈴木:私とかだと、商品企画から入りなおしちゃいますね。

これからのD2Cとマーケティングの変化

鈴木氏
田内:今後、D2C事業社はマーケットにどう向き合っていくのが良いって思います?立ち回りとか。

鈴木:個人的には、商品に自信あるなら断然「完全返金保証」やるべきだと思ってます。

田内:めちゃハードル高いやつじゃないですか(笑)

鈴木:そうなんですよ。でも美容健康系とか特にそうですけど効果が出るまでの回数とか、条件って商品毎にあるはずなんですよ。個体差はあるものの概ねの効能としてはメーカー側で検証してて然るべきなので。だから、私の場合は最初に「何回ぐらいで効くんですか?」って必ず聞いちゃいます。

で、これ聞いた後に「そこまで走れば大丈夫ですよね?」「そこまで走る施策を考えませんか?」って感じで、施策の1つとして提案してます。

田内:攻めてますね。

鈴木:何度も提案してきたんですけどね。実施してくれるところはかなり少ないですよ。

田内:そりゃ怖いですからね

鈴木:でも、それやらないことで買わせるハードルが上がっちゃうわけじゃないですか。一般消費者からすれば、デパコスみたいな高品質かつブランドがしっかりしてる商品を知ってるわけですよ。それを効くかもわからない新興メーカーの商品をそれなりの金額を払ってトライするのでリスクが圧倒的に大きい。

結局、ユーザー側の利益を無視してD2C、というかサービス提供をすること自体が難しいんですよね。とはいえ、そういう話はするけど実施はされないのが現実でもあるんで。

田内さんが自社ブランドでD2Cするなら、そういう売り方をテストして欲しいですねー。

田内:短期的にはテストするんじゃないですかね?ABテストと効果測定が得意な会社なんで。基本的には何事も一旦テストの精神。なにより、その一手でCVRがっつり上がるならコスパ良い可能性は全然あるんで。

鈴木:実は検証したことあるんですけど、ぶっちゃけ完全返金保証っていっても実際に返金の申請してくるのって全体2%以下。Eコマースの定期購入って前提ですが。

で、逆に2%越えるなら「数字が悪い」って判断して、プロジェクトに関わってる人集めて改善会議しなくちゃいけない。「なぜこんなに返金オファーされるのか」「商品設計の見直しが必要じゃないのか」みたいな。これってD2Cサービス的には普通のフローだし、完全返金保証にしても大丈夫なんじゃないかと思うんですけどね。あくまで商品に自信があるって前提で(笑)

田内:それっすね。まあ、利益になるか見通しが立たない施策に消極的になる気持ちはわかりますけどね。

ただ、市場とか顧客心理の変化に対応していくのがD2Cだし、そもそもGoogleとかFacebookとかAmazonだって超テストしてる。Googleとか年間8000回はABテストしてるって言われてる。ビジネス成功の変数には確実に対応力とか環境適応力が含まれてますからね。作って、売って、終わりってのはもう立ち行かないと思う。

鈴木:それ。やっぱり売るってことの本質を捉えたやり方しなくちゃいけない。変化に対応しながら、これまで自分たちが築いてきた従来のやり方を捨てられるか。この辺りの能力も結構大事ですね。広告一つとっても、半年一年単位でやり方結構変わるじゃないですか。

田内:そうですねー。流行りの媒体も変わるし、レギュレーション改定も起きてること多いし。そもそも新規プラットフォーム登場してるとかもある。

田内氏と鈴木氏
鈴木:田内さんとこではD2Cってやらないんですか?

田内:準備してるのも含めて何個かやってますよ。

鈴木:おお!

田内:モノは伏せますけど食品とか飲料とかそういう系ですね。市場がより品質勝負になっていくと僕は思っているので、マーケティング力以外の部分をめちゃ強くしておきたくて。

鈴木:マーケティング力以外っていうのは具体的にはどういうことするんですか?

田内:単純に局所市場のトップランと組むってやり方ですね。品質が業界トップクラスであるところと組めば、LTV面において競合優位性が高い状態を容易に作れるので。

商品は市場に溢れかえってるんで、そもそもとして競合性は何の商品やっても高いって前提の方が楽だと思うんですよ。となると、競合プレイヤーがいっぱいいるってことで、必然的にターゲットレンジでの広告配信プレイヤーも量も多くなる。これは確実にCPAが高くなる、というか獲得数を伸ばそうと思ったら高くなっていかざるを得ない。ってことは許容できるCPAが高くないと獲得件数のトップラインを上げられないんですよ。少なくとも資本戦をする気がないなら。

つまり、競合よりも良いLTVなり客単価を叩き出し、許容CPAを高めまくって、増加していく資本をPRとかの認知に全振りする。商品の品質は既に良いからしばらくは余裕があるから、その間に土台を整えきる。

鈴木:その戦い方は雑な商品は無理ですね(笑)

田内:そうなんですよ。LTVがマーケティング技術で上がらないなら顧客体験を強化するしかない。なので「〇〇で日本一」とか「〇〇ジャンルで超老舗」みたいなプロダクトに付加できる極端な特徴が欲しい。ないなら、もはや触るべきじゃないとさえ思っちゃいますね。あくまでマーケターとしてはですが。

鈴木:マーケティングやってる人が言うのもアレですけど、同感ですね。

田内:商品作るのってめっちゃ熱量いるじゃないですか。中途半端なものを一級品に磨き上げるのって時間と労力が途方もないじゃない。だったら、それに限りなく近いプロダクトを取り扱うのが合理的だ、と。本当は、僕にプロダクトを磨き上げられるだけの圧倒的な情熱があればやりたいですけど、まあそういうのないので(笑)

鈴木:プロダクトに人生かけられる人って変態ですからね。そういう意味では、田内さんのマーケティングへの熱量もまあまあ変態的ですよ(笑)

でも、一流はまた一流を求めるみたいな話なんですかね。僕もD2Cやろうって本気で思ったら労力すごいんで、ほぼ確実に他の仕事全部やめますね。それぐらいの覚悟が必要だと思いますよホント。

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