PG×データセクション対談
田内広平(写真左)
PROJECT GROUP株式会社 代表取締役。
2012年、大学卒業と同時に株式会社Project L.C.(現・PROJECT GROUP株式会社)を創業。ORBIS、品川美容外科クリニック、ビックカメラといった大手クライアントを中心にデータマーケティング/R&Dを提供。グロースハック集団として業界トップクラスの実績を持つ。ベストベンチャー100を2017/2018で連続受賞。
林健人 氏(写真右)
2002年、早稲田大学卒業後、現在の日本IBM(旧PwCコンサルティング)に入社。多数のコンサルティング案件に従事。2007年より現SCSKのCVCとして設立されたグループ会社にて新規事業開発投資を行う。そこでデータセクションと共同でソーシャルメディア分析事業の新規事業開発したことをきっかけに2009年データセクションの取締役COOに就任。(SCSKとデータセクションとの資本関係は無し)
当時数人のスタートアップ企業から事業成長を行い、ビッグデータ分析企業として2014年東証マザーズに上場。他にもデータセクション社内での新規事業開発から子会社へ分社化とその代表を務めた経験や現在でも複数のグループ会社での取締役を兼務している。
2018年にはデータセクションの代表取締役社長に就任しAI技術を活用したソリューション開発を行う。2019年には海外企業のM&Aを行うなどグローバルで20カ国にサービス展開するグローバルカンパニーに。今後は日本発のグローバルIoT企業を目指す。

日本のビジネスにおいて大流行するDXとは。

林氏と田内
田内広平今回はここ最近流行になっている『DX(デジタルトランスフォーメーション)』をテーマにお届けするということで、データセクションの林さんをお伺いしました!

データセクションはデータ分析に精通した会社で、近年ではリテール業界における店舗のデジタルシフト推進に取り組んでいます。今回、林さんにはデータ活用やDXの最前線に立つプレイヤーとして話を伺いたいと思います。本日はよろしくお願いします。

林健人どうぞお手柔らかに、よろしくお願いします(笑)

田内広平さっそくなんですが、DXがめちゃくちゃ流行ってます。数年前と比べると、ネットの検索件数も何倍にも膨れ上がってるし、今や完全なトレンドワードなわけですが、林さんから見てDXってどう思いますか?

林健人すごく流行ってますね。ただ、DXという言葉が先行してはいるものの上手く取り組めている企業は多くないのではないかと思っています。

経済産業省がDX推進のレポート※1でDXを定義しているのですが、この定義を嚙み砕いて言うと「改革にあたってデジタル技術を用いて、上手に組織や業務に取り入れましょう」という話ですよね。

つまり、DXは手法の話ということです。更に言えば、時代を振り返って考えた時に「IT化」とかの文脈と流れが同じだと思っています。

田内広平確かに正直なところ昔からあるコトをキーワードでリブランディングしただけなのでは?って思うところはありますね。

林健人過去のIT革命とかIT化と明らかに異なるのは「データ収集をするセンサーの小型化・低消費電力・低価格化」、それによる「データ量の増大」、「処理速度の加速」は日進月歩で進化しているのでデータ分析を事業活動に活かすという取り組みはより重要になりますね。

※1 DXの定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
参照:経済産業省

売り文句としてのトレンドワードはNG。

WEBマーケカオスマップ
引用:basicinc.jp
田内広平市場を見ていると、とりあえずデータ化・AI化・ツール導入みたいな思考が先行して、組織改革という部分からどんどん道が逸れてる企業をよく目にするんですけど、そういう思考の企業って多くないですか?

林健人そうですね。ITベンダーは「ITの仕組み」を売るわけだから、ツールやパッケージソフトやそれに伴うシステム開発ありきの話。なので、どうしても「自分たちのソリューションを導入してもらうためには、どんな売り文句にすればよいのか」といった、プロダクトアウト的な考え方になってしまうという問題があります。

この考え方では、ただの販売者と消費者の間柄になりがちになり、お客さんに寄り添ったサービス提供とは言えない。そのため、まず、我々も含むITベンダー側は、お客さんに対してデータ化・AI化などのトレンドのようなワードを使うことについて、気をつけなければいけないと思っております。

田内広平本当にその通りですね。それこそ「顧客体験」×「DX」みたいな文脈で推し出してる企業もありますけど、何言ってるか全くわからないですからね。「それってずっと言われてるIT化じゃないの?」っていう。もちろんトレンドワードを使えば売りやすいから、言ったもん勝ち状態なのは分かるんですけどね。

でもやっぱり、そういう企業に限ってトレンドワードを作るのが上手い会社だったりしませんか?

林健人確かにその通りです。その時々に売り文句となるトレンドワードが存在しているのかなと。

田内広平うちの会社がやっている「グロースハック」とかも最たる例ですからね。バズっていた当時はグロースハック推進の企業が次々に出てきましたけど、みんな消えていきましたからね。

恐らくアナロギーなものをデジタルに切り替えたいっていう一定の層がいて、その時々に都合のいい言葉を見繕って布教してるんでしょうね。

DX=データ化/デジタル化の風潮。DXは過程であり着地ではない。

林氏
田内広平DXの土壌づくりにデジタル技術の導入は必須事項。だから何かを「データ化する」「デジタル化する」という取り組みは別に良いと思うんですよ。ただ、その後の目的が大抵の場合が無いんですよね。

特にデータ分析に不慣れな会社とかは「データ化すれば伸びるんじゃないか?」みたいな変な期待を持っている。データ化することがゴールにすり替わっていて、本来のゴールである組織改革とか競争優位性の確立、業務効率化みたいな部分が置き去り。DXすること自体はあくまでも過程であって、着地ではないと思うんですよね。

林健人まさにその通りかと思います。以前耳にした他社の事例なのですが、顧客の行動分析のために店内にカメラを何百台も設置するという話があったそうです。こういった設備投資ももちろん重要です。しかしそれ以上に、データ化・分析した後のアクションに活かせること、また最終的に企業にとって効果が得られることがイメージできているのかが重要だと思います。

田内広平ですね。それこそデータって有効活用できるタイミングがあるわけですけど、多くはそのタイミングを理解せずに何でもかんでもデータ化すれば良いと思っている。でもDXってそういう事じゃないですよね。

現状の問題を洗い出したうえで、DX推進にあたって経営戦略を組む。その戦略の中にはデータ分析以前にやるべき事が沢山あると思うんですよ。そういった前提の基盤があって初めてデータ分析が活きてくるし、集めたデータも次の戦略に組み込むことができる。

林健人そうですね。現状の立ち位置をハッキリさせた上で進めていかなければ、データ化しても意味は無いと思います。だからこそ改めて、「御社にとって本来あるべき姿はこうではありませんか?」と、クライアントに誠意を持って提言・提案し続けることは重要なことだと思います。そして、クライアントにその提案の背景や意図を理解してもらうことも、我々は努力しなければいけないと思っています。

目的無きDXに価値はない。

田内と林氏
林健人そもそもの話ですが、データの収集環境を整えたとしても、活用目的が明確でなければ、データを集める意味が無いと思っています。また「あらゆる方面からデータ化しましょう」と言って、網羅的にデータ収集をやろうとすると多額な費用が発生し、下手するとオペレーションそのものを阻害してしまう場合もあります。

データ収集やデータ分析は、DXを進めてく過程の1ステップに過ぎず、その先にはデータを基にした改善や効率化が待っています。結局、その本来の目的を見失ってしまい「とりあえずまずは手を動かす・行動する」というところへ、多くの人が陥っているのではないでしょうか。

田内広平その通りです。だから結局はDXを推進する上で一番重要なのが戦略なんですよね。そういう意味では社内にデジタルに精通して、なおかつ大きな経営戦略を組めるような人材が不可欠なんですよ。

外部に委託したところでオブザーバーぐらいにしかならないし、仮にデータ活用の実績があったとしても内部状況を正確に把握しているわけじゃない。故にちゃんとした戦略を描ける人材は外部にはいないという事なんですよ。

林健人ただ、企業によって得意・不得意の領域が存在して、知らないことや出来ないことが出てくるのは当然な話だと思っています。だからこそ我々のような企業がデータ分析やDXと呼ばれる領域でお客様に寄り添いながら、戦略面も含めてサポートしていくことが必要だと考えています。

田内広平そうですね。ちなみに、企業がゼロからDXに取り組む場合、どんな経験を積んでいくべきなんですかね?

林健人経験を積むという点でいえば、確実に最後までやり通せるところから、データに基づいて業務改善に取り組んでみるでしょうね。本当に小さなことや些細なことで構いません。データを正しく取り扱うということは、その経験でしか得られないスキルだと僕は思っています。

それらを進めるにあたっては、企業にとって「そもそもどういう事が出来ると業務改善に繋がるのか」みたいな事を、自社内でしっかり考えられる環境があるとベターです。問題定義などの面で、経験値を得られると思いますよ。

そこで得た経験やスキルは、その企業独自のノウハウやナレッジだと思います。そうしたナレッジを企業内でしっかりと貯めていくことが強みにもなる。なので、せっかくなら、それらのナレッジが貯まるような体制と人材を企業側でもアサインしてくれると嬉しいです。

田内広平なるほど。CXOクラスとまでは言わないですけど、DXの推進をコミットしてくれる担当みたいな人が本当はいるべきなんですね。

海外との差は歴然。DXを推進できるCXOが不足している原因とは。

田内
田内広平日本に優秀なデータアナリスト、CXOクラスの人材がいないのは環境要因もかなり影響してると思うんですよ。海外と比較すると分かりやすいんですけど、例えば人口数によるリターンの違いですね。

例えば日本の人口1億2,000万人に対して、中国の人口は軽く10倍はあるわけじゃないですか。ということは、日本で1,000人のデータサンプルしか集まらないところ、中国であれば1万人以上のサンプルが集まるわけなんですよ。

となると1/10のサンプルケースしかない日本は結果を出すために、10倍の時間が単純に掛かるってことなんですよね。しかも、返ってくるリターンも10倍差が出ると。そうなるとそもそもデータアナリストって、中国やインド、アメリカみたいな人口の多い国じゃないと増産できない職業だと思うんですよ。

データアナリストに高額な報酬を支払うにも、当然リターンがあっての話じゃないですか。例えば凡庸なデータアナリストがいたとして、中国なら年収1,000万円でコスパが合うところ、日本ではデータ母数が1/10だからアナリストが出せる成果も1/10になる。

つまり極論ですけど中国で年収1,000万円級アナリストでも、日本に来たら年収100万円じゃないとコスパが合わないことになるんですよね。だから日本では優秀なデータアナリスト、あるいはCXO人材が出てきづらいんじゃないかという仮説を持っています。

林健人確かに一理ありますね。そういった観点で考えると、人口ボーナスがある国なのであればリターンは出やすいし、優秀な人材が生まれやすいのかもしれませんね。私の観点からすると、日本がよりグローバル思考に、ターゲットとして海外へと目を向けるようになれば良いのかなと思ったりします。

とはいえ日本には1億2,000万人という人口がいるのも確か。字面からデータ母数が多くあると思ってしまいがちですし、結果的には「まず国内をターゲットにしていこう」となってしまう。でも実際に取得できるデータは限られた数しか無い上に、将来は少子高齢化による人口縮小の傾向も指摘されている。

また近年の個人情報利用における制限の強化もあり、今後データを上手く使えなくなってくる可能性を考えると、色々と厳しいですね。

経済産業省レポート
引用:ビジネスモデル革新について
田内広平そうなんですね。CMOについては、実際に経済産業省のレポートで報告されてるんですけど、CMOを任命している企業割合がアメリカだと62%、日本だと僅か0.3%とCMO数にめちゃくちゃ差があるんですよね。

林健人そんなに差があるんですね。ただ、一方でリテールの業界だと優秀な人材と言われる人たちは増えてきている印象を受けます。理由はリテール業界の企業でCXOとして活躍されていた人たちが、様々な企業にデータ活用のノウハウや文化を根付かせているからですね。

この例のように、日本の各企業でデータチームを作っていって、その企業の優秀な社員たちがしっかり会社を引っ張れるように教育していくのが、最も効果的なのではないのかな。

田内広平仰るとおりですね。

DX2.0で加速するDXトレンド、DXの本質にトレンドが追い付く?

林氏
林健人最近だと、これまでの「データ化・デジタル化しましょう」みたいな風潮から、データ活用にフォーカスされ始めていますね。まだ市場全体に浸透しているわけでは無いですけど、以前よりもずっと本質に近付いたと思っていて、まさにDX2.0とも呼べるような変化が起こり始めている。兆候としては悪くないと感じています。

田内広平確かにかなり本質的にはなりそうですね。ただDXもこれまでのトレンドワードと同様に市場がどんどん成熟していくに連れて、「結局DXって何だったんだ」みたいな感じで熱が冷めると思うんですよ。そうなった時でも改めてDXを推進できる人が必要だと思うんですよね。

林健人そうですね。結局DXと言っても、企業がどのようにデータ活用から事業を良くしていけるのかが大事で、それを推進できる人が重要なんですよね。

DX2.0では、データをしっかり業務活用するということが主体になってくると思っています。この流れによってDXの恩恵を受けるのは企業だけでないと思います。企業は、消費者が本当に求めているニーズなどを汲み取れるようになり、そのニーズに応えたサービス・賞品を提供できるようにもなる。このように、結果的には消費者もDXの恩恵を受けるようになるのではないでしょうか。

また、グローバル視点で考えた時もメリットが発生するのではないかと思っています。現在の日本は、DXへの取り組みが遅い国だと考えています。しかし、先ほど話した「消費者一人一人の声に耳を傾ける・汲み取る」という部分については、ホスピタリティの高い日本にアドバンテージがあると思っています。

それこそ日本人の根底にある「三方よし」や「おもてなし」のような、日本ならではのホスピタリティをしっかり武器にしていけば、グローバルでも通用するビジネスができるのではないでしょうか。

例えば、東南アジアへ旅行に行くとよく見られる光景ですが、「お客様が来店しても、店員はずっとスマートフォンをいじっている」という状況が日常茶飯事的に起きています。

そうした状況を脱するために店内の行動分析から、店舗スタッフのオペレーションを良くしようと試みる。課題をどんどん洗い出して、ホスピタリティが上がるようなアクションをする。そうやってオペレーションが改善されることでサービスレベルも上がれば、その店舗で商品を買う人たちがもっとハッピーになりますよね。

現在の新興国では、GDPが右肩上がりで消費も伸びている状況です。その店舗で買って楽しいと感じれば、もっと買いたいと思うようになる。そうやって国が成長していく過程の中に、日本のサービスが海外にどんどん導入されていけば良いと思っております。

田内
田内広平間違いないですね。僕が思うDX2.0なんですけど、やっぱりこれまでのDXって「とりあえずデジタル化しましょう」みたいな文脈で用いられていたと思うんですよ。でも、そもそもデジタル化のメリットって『マーケットフィット』『UX拡張』『データ化』の3つ。ただ最後の『データ化』の部分がおかしなことになってると思ってるんですね。

本来『マーケットフィット』『UX拡張』の観点を重視するなら、必然的に『データ化』の部分は必要最低限のデータを収集できるようにすればいいはず。なのに現実は『マーケットフィット』『UX拡張』部分を中途半端に推進して、必要以上に『データ化』ばかりを行ってるんですね。

それに『マーケットフィット』と『UX拡張』を本気でやるってことは、ビジネスの再構築に等しいんですよ。つまり、そもそもこの部分を外注で丸投げして、なおかつパッケージで補完できるはずがないっていう。あくまで社内に『マーケットフィット』『UX拡張』を推進できる推進者がいて、『データ化』のためにパッケージを用いるのが本来の姿であるべきだと。

だから、DX2.0で『マーケットフィット』『UX拡張』をどうするか追求して、その後『データ化』に入るという当たり前のプロセスを前提とした概念って認識ですね。むしろ「やっとスタンダードになってきたか」って感じすね。

林健人確かにそうかもしれませんね。ちなみにDX2.0で『データ化』の部分に変化はあると思いますか?

田内広平データってあくまで数字でしかない事に変わりはないと思うんですよ。例えばCVR3%という数字が出たとして、この数字が高いとも低いとも、この段階では決められないんですよね。

データ分析って対比するデータを予め用意しておいて、それと対比した結果が高い低いでしかないんですよ。で、なおかつ対比する対象のデータは全くの同条件でない限りは、確実な対比とはいえない。つまり、ここでいう高い低いっていうのはあくまで仮説の域を出ないんですよね。

つまり『データ化』とは仮説を組み立てる際、改善施策の確度を上げるために用いるもので、データ化することで答えが見つかるわけではないんですよ。これはDX2.0でも変わらないんじゃないかなって思いますね。

林健人なるほど。そういう意味でも、この領域においてプロフェッショナルである僕たちが、各企業の推進者をしっかりとサポートしていかなければいけませんね。

データセクションが提供するリテール業界向けDXツールはこちら

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