競合とは違う独自の価値を提供できなければ商品やサービスは普及しません。
これは基本的なことですが、心がけだけではなかなか実現が難しいものです。
商品・サービスの独自の「位置」を見つけ出す方法として、マーケティングの世界では「STP分析」という手法が用いられています。
今回は、STP分析の概要や具体的な方法や成功した事例についてお話しします。
目次
STP分析とは
STP分析とは、自社が展開しようとしている商品・サービスの立ち位置を明確にする分析手法です。
「ユーザー目線」の立ち位置から、商品・サービスのプロモーション戦略、改善点・改良点を明らかにするために実施されます。
具体的な戦略なしで商品・サービスをリリースしても、ターゲットにリーチできる可能性は低いです。
また、競合の存在によってリリースのインパクトがかき消されてしまうこともあるため、多くの角度から分析を行いベストなアプローチを探す取り組みが必要です。
マーケティングの世界では、リリース後の失敗を回避するためにさまざまな分析手法が用いられておりSTP分析はその中でも基本的な手法のひとつです。
STP分析の目的
STP分析の目的は、商品・サービスが位置すべき立ち位置を明確にすることです。
分析によって裏付けされた戦略を、商品・サービスに関わる人間同士で共有しておくことは大切です。
どのようなユーザーがおり、どのようなニーズがあるのか把握することもSTP分析の目的の一つです。
また、その時点でシェアを有している競合の存在について把握することも目的と言えます。
3つの要素
STP分析の「STP」は、それぞれ「Segmentation」「Targeting」「Positioning」の頭文字です。
これらはSTP分析で行う大きな取り組みを意味しています。
- セグメンテーション(segmentation)
- ターゲティング(targeting)
- ポジショニング(positioning)
STP分析はこれらの取り組みをとおして、顧客のニーズや競合との差別化方法を導き出します。これらの3要素について以下で深掘りして説明しましょう。
セグメンテーション(segmentation)
セグメンテーション(Segmentation)は顧客層を分類する取り組みです。どのようなニーズがあるのかを明確にします。
ニーズは目に見えない要素ですが、顧客をいくつかの条件に分けて分類することで大まかに顕在化してきます。
セグメンテーションには一般的に以下の4つの指標が用いられます。
指標 | 概要 |
---|---|
地理的変数 | 居住地やその土地の気候など地理的要因に関わる指標。文化や宗教もこの指標に含まれる。 |
人口統計的変数 | 性別・年齢・学歴・家族構成など、変わることのない人間の基本情報。 |
心理的変数 | 性格・ライフスタイル・価値観など、人間の心理に基づく指標。 |
行動変数 | 購買の頻度・タイミングなど人間の行動に基づく指標。 |
ターゲティング(targeting)
ターゲティング(Targeting)はセグメンテーションで細分化した顧客層をもとに、自社のターゲットを決める取り組みです。
ターゲットとして適していない顧客層と集中すべき顧客層を明らかにし、リーチできる確率を高めます。
コストやリソースを無駄なく使えるのもポイントです。また、ターゲティング指標は以下の5つが一般的になります。
指標 | 概要 |
---|---|
顧客層の重要度 | その時点での顧客の重要度に基づく指標。 |
売上高と利益 | 期待できる売上高と利益に基づく指標。 |
製品・サービスを届ける確実性 | リーチできる確実性に基づく指標。 |
顧客層の反応 | 「顧客の反応を分析できるか否か」に基づく指標。 |
競合の状況 | そのセグメントでの競合に対する優位性に基づく指標。 |
ポジショニング(positioning)
ポジショニング(Positioning)はセグメンテーションで決めた市場の中で、自社商品・サービスの立ち位置を決める取り組みです。
差別化により市場の中で競合と戦える商品・サービスをリリースするために実施されます。
ポジショニングでは、まず商品・サービスが属することになるカテゴリを検討します。続いて、そのカテゴリの中で価値の軸となる2要素を見つけましょう。
多くの場合、価格はそのひとつです。もうひとつの軸は、カテゴリによって変わってきます。
次に、2軸の表の中に競合を配置していきます。これはカテゴリ内の状況を可視化することが目的です。
最後に、自社のサービス・商品を配置したい場所を検討します。
STP分析のやり方
STP分析をやみくもに進めても意味はありません。
STP分析の結果を活用してどのような目的を達成したいのか検討することが大切です。
目的によって用いるべき分析方法は変わってきますので、STP分析以外の分析方法も視野に入れる必要があります。
実際にSTP分析を実施する際には、以下の手順に沿って進めていきます。
- 顧客とニーズの分布を整理する
- プロモーション戦略を明確にする
- 市場へのアプローチ方法を考える
- 市場の成長率や大きさを確認する
顧客とニーズの分布を整理する
商品・サービスをリーチさせたいのはどんな顧客なのか把握できていなければ、有効な戦略は立てられません。
仮想的に想定した顧客像を「ペルソナ」と呼びます。
まずはペルソナを設定してから顧客の思考やニーズを想像し、求められている商品・サービスを明確にすることが大切です。
ペルソナ設定が重要な理由として以下のようなものが挙げられます。
〈ペルソナが重要な理由〉
- 商品・サービスに関わらう人間同士で共通した人物像を共有できる。
- 顧客の視点でニーズを想定できる。
- プロジェクトの方向性が限定され、無駄なコストや工数が削減される。
プロモーション戦略を明確にする
効率的に商品・サービスを浸透させるためには、明確なプロモーション戦略が必要です。
顧客中心のビジネスが重要視されている近年では、顧客と密接にコミュニケーションする戦略が求められています。
ペルソナを詳細に設定していれば、有効なコミュニケーション方法が見えてくるはずです。
さらに、わかりやすく言語化されたプロモーション戦略が共通認識としてあれば、組織全体が動きやすくなります。
市場へのアプローチ方法を考える
STP分析でわかるのはあくまでも、市場での立ち位置や顧客のニーズです。
最終的には、顧客に製品・サービスの魅力を伝えなければなりません。
実際のアプローチ方法は、STP分析の後でさらに考える必要があります。
具体的なアプローチ方法を決めるためには、ほかの分析方法やフレームワークが求められることもあります。
市場の成長率や大きさを確認する
一度プロジェクトが始動した後に立ち位置を変更するのは困難なため、STP分析で導き出した商品・サービスの立ち位置が本当に正しいのか確認する必要があります。
市場そのものの大きさや成長率によっては、ビジネス展開を調整する必要があります。
詳細な市場調査や別の角度からの分析を用いて、市場の成長率と大きさを確認しましょう。
STP分析表のテンプレート
言語やイメージだけでSTP分析を進めるのは困難です。
とりわけ組織で分析結果を共有するためには、誰が見てもわかりやすい資料が求められます。
テンプレートを用いれば、可視化されたわかりやすいSTP分析が行えます。
テンプレートにはっきりとしたルールはありませんが、セグメンテーション、ターゲティング、ポジションにそれぞれ図を用意するのが一般的です。
セグメンテーションの図で市場全体を把握し、ターゲティングの図ではその中から対象とすべき層を抽出、ポジショニングでさらに自社商品・サービスの立ち位置を決める、という流れになります。
以下はテンプレートの例です。
STP分析の範例
STP分析は多くの競合がいる市場でもオリジナルの立ち位置が見いだせる分析手法です。
そのため、競合が多く飽和している市場に参入する企業が実際にSTP分析を用いています。
STP分析によって競合と重複しない立ち位置を確立し、業界大手に成長した企業の例は少なくありません。
また、すでに大手と言える企業もSTP分析によって慎重に参入市場を検討しています。
こちらでは、実際に企業や組織が行ったSTP分析の範例をご紹介します。
<紹介するSTP分析の範例>
- スターバックスのSTP分析例
- ユニクロのSTP分析例
- ホンダのSTP分析例
スターバックスのSTP分析例
コーヒーチェーンのスターバックスは1995年に日本上陸しました。4年後の1999年には、100店舗への拡大に成功しています。
この急激な成長の背景にあるのは、スターバックスが行ったSTP分析です。
スターバックはSTP分析の結果、以下のようなアプローチを見いだしています。
- 顧客の社会的地位や経済的地位に焦点をあてる
- 大都市の駅前などアクセスしやすい場所への店舗展開
- 高級感があり居心地が良く美味しいコーヒーが楽しめる
あえて庶民性を捨て、高級志向で売り出すというアプローチです。上の表を見ると、そのアプローチが成功していることがわかります。
ユニクロのSTP分析例
出典:LISKUL
アパレルブランドのユニクロもスタートから急成長をとげ、現在も着実な拡大を見せています。ユニクロが拡大した背景にあるのも、シビアなSTP分析です。
ユニクロのSTP分析では以下のようなポイントが重視されています。
- 商品企画から製造、販売までを行う自社のシステムを活かす。
- 多様化するアパレル業界のニーズに対し、あえてセグメンテーションを「カジュアル・フォーマル」「トレンド・ベーシック」へと2軸化。
- 顧客層の限定ではなく、生産・販売する商品を限定。
分析の結果ユニクロは、アパレル業界の流れを追わず「生活に必要とされる商品開発」というコンセプトにたどりつきました。この決断が功を奏し、安定した地位を維持しています。
ホンダのSTP分析例
出典:LISKUL
ホンダはSTP分析によって独自のターゲットを狙い、海外のバイク市場で成功した企業です。
当時、バイク市場はワイルドなライダーが乗るハーレーがシェアのほとんどを占めていました。
その状況に対し、ホンダは以下のようなセグメンテーションでターゲットをくくりだしています。
- 今バイクに乗っていない人もターゲットになり得る。
- ファッションではなく「日常の足」としてバイクを使いたい層を発見。
- 「黒いレザージャケット」など、従来のバイクのワイルドなイメージとの差別化。
結果としてホンダのスーパーカブはそれまでバイクに乗っていない人にも移動手段として注目されました。数年後には、ハーレーをしのぐ普及を見せています。
まとめ
STP分析のコンセプトや方法は単純ですが、商品・サービスの売り出し方を決めるうえでは大切な取り組みです。
その重要性は多くの企業がSTP分析によって成長に成功していることからも明らかと言えます。
プロジェクトがスタートした後に立ち位置を変えるのは現実的ではありません。
組織が共通認識をもってプロジェクトを推進していくためにも、STP分析を実施してください。